大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和60年(ワ)977号 判決

原告

濱直廣

ほか一名

被告

丸高運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告濱直廣に対し三六五万六一八九円、原告濱フクミに対し三三〇万六一八九円及び右各金員に対する昭和五八年三月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告濱直廣(以下「原告直廣」という。)に対し一一五六万九五四六円、原告濱フクミ(以下「原告フクミ」という。)に対し一〇九三万九五四五円及び右各金員に対する昭和五八年三月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年三月二一日午後七時五〇分ころ

(二) 場所 埼玉県草加市花栗町五三八番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 事業用大型貨物自動車(札一一か八四〇)

右運転者 被告佐々木忠勝(以下「被告佐々木」という。)

(四) 被害車両 原動機付自転車(足立区や四〇七九)

右運転者 亡濱由美子(以下「亡由美子」という。)

(五) 事故態様 被告佐々木が、加害車両を運転し、国道四号線を進行して、本件交差点を東京方面から越谷方面に直進するに当たり、加害車両の左後方からこれと並行して同方向に進行していた亡由美子運転の被害車両の進路を妨害して、本件交差点を通過したころ、加害車両の後輪部分と被害車両のハンドル右端付近とを衝突させて被害車両を転倒させた。

(六) 結果 亡由美子は、右前頭骨粉砕骨折兼脳挫傷の傷害を負い、即死した。

(右事故を、以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告丸高運輸株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車両を保有し自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(二) 被告佐々木は、加害車両のハンドル、ブレーキ、その他の装置を確実に操作し、かつ道路、交通及び加害車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転し、左右の道路の安全を確認すべき注意義務を怠つた過失があるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 逸失利益 二〇七六万四三六八円

亡由美子は、昭和四二年二月一五日生れで、本件事故当時満一六歳の健康な独身女子であり、将来の職業として美容師を選び、美容師学校に入学することになつていたものであり、本件事故で死亡しなければ、満一八歳から満六七歳までの四九年間稼働可能であつたから、昭和五八年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、女子労働者、学歴計、全年齢平均給与額である年額二一二万〇二〇〇円を基礎に、生活費として四割を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡由美子の逸失利益の現価を算定すると、その合計額は、次の計算式のとおり、二〇七六万四三六八円となる。

211万0200×0.6×16.48=2076万4368

(二) 慰藉料 一三〇〇万円

亡由美子は、健康で春秋に富んだ年齢で死亡したものであり、慰藉料としては一三〇〇万円が相当である。

(三) 相続

原告らは、亡由美子の両親であり、亡由美子の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続取得した。

(四) 葬儀費用 七〇万円

原告直廣は、亡由美子の葬儀を行い、これに七〇万円を超える金員を支出した。

(五) 過失相殺 一割

以上の損害の合計は三四五六万五六五七円となるが、本件事故については、亡由美子にも若干の過失があるので、過失相殺として一割を控除すると残額は三一一〇万九〇九一円となる。

(六) 損害のてん補 一〇〇〇万円

原告らは、前記損害に対するてん補として、自賠責保険から一〇〇〇万円の支払を受け、これを二分の一ずつ各自の損害に充当した。

(七) 弁護士費用 合計一四〇万円

原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として一四〇万円を二分の一ずつ支払う旨約した。

4  結論

よつて、原告らは、被告ら各自に対し、本件事故による損害賠償として、原告直廣において一一五六万九五四六円、原告フクミにおいて一〇九三万九五四五円及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五八年三月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)の事実、及び(五)のうち被告佐々木が加害車両を運転し、国道四号線を進行して、本件交差点を東京方面から越谷方面に直進したこと、並びに(六)のうち亡由美子が即死したことはいずれも認めるが、(五)のその余の事実は否認する。

2  同2(責任原因)の(一)の事実中、被告会社が加害車両を保有し自己のため運行の用に供していた者であることは認めるが責任は争う。

同(二)の事実中、被告佐々木の過失は否認し、責任は争う。

3  同3(損害)の事実中、原告らが亡由美子の両親であることは認めるが、その余はすべて不知。

4  同4(結論)の主張は争う。

三  抗弁ないし被告らの主張

被告佐々木は、本件交差点の手前で対面信号が赤になつたので停止線に停止し、青信号になつて発進したが、加害車両が信号待ちのため停止中、その左側には三台の原動機付自転車が停止しており、亡由美子運転の被害車両はそのうちの三台目であつた。

被告佐々木が青信号で発進した際、亡由美子も被害車両を発進させ、無理に加害車両を追い越そうとした際、ハンドル操作を誤り、被害車両を道路左側の縁石に接触させて転倒し、縁石に頭部を打ち、ヘルメツトを着用していなかつたため死亡したものである。加害車両が亡由美子を轢過したことはなく、被告佐々木の運転には何ら過失はない。

したがつて、被告佐々木には民法第七〇九条の規定に基づく責任はないし、被告会社は、免責されるものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁ないし被告らの主張中、被告佐々木は、本件交差点の手前で対面信号が赤になつたので停止線に停止し、青信号になつて発進したが、加害車両が信号待ちのため停止中、その左側には三台の原動機付自転車が停止しており、亡由美子運転の被害車両はそのうちの三台目であつたこと、被告佐々木が青信号で発進した際、亡由美子も被害車両を発進させたこと、亡由美子はヘルメツトを着用していなかつたことは認めるが、その余は否認し、その主張は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)の事実、及び(五)のうち被告佐々木が加害車両を運転し、国道四号線を進行して、本件交差点を東京方面から越谷方面に直進したこと、並びに(六)のうち亡由美子が即死したことはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の状況及び被告の責任について判断する。

1  被告佐々木は、本件交差点の手前で対面信号が赤になつたので停止線に停止し、青信号になつて発進したが、加害車両が信号待ちのため停止中、その左側には三台の原動機付自転車が停止しており、亡由美子運転の被害車両はそのうちの三台目であつたこと、被告佐々木が青信号で発進した際、亡由美子も被害車両を発進させたこと、亡由美子はヘルメツトを着用していなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、成立に争いのない甲第二号証、乙第一証の二五、原本の存在と成立に争いのない甲第三号証、第五号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第一号証の三ないし九、一一、一二を総合すれば、

(一)  本件交差点は、東京方面(南方)から越谷方面(北方)に通じる国道四号線が他の道路とやや斜めに交わる信号機によつて交通整理の行われている交差点であり、国道四号線は、直線で平坦な舗装道路で、本件事故当時路面は乾燥していたこと、

(二)  国道四号線は、東京方面から越谷方面に向かう車線(北行車線)とその反対車線とに中央分離帯によつて区分され、両車線とも右折車線が設置されているため、本件交差点の入口側が三車線、出口側が二車線になつていること、

(三)  北行車線の本件交差点の北側は、第一車線が幅員約三・二メートル、第二車線が幅員約三・一五メートルで、第一車線の左側には縁石との間隔が約七八センチメートルの路側帯があり、さらに縁石の約二一センチメートル左側にガードレールがあること、右の路側帯、縁石、ガードレールは交差点に近い部分は西側に曲がつて設置されていること、

(四)  被告佐々木は、加害車両を運転して国道四号線を北進し、本件交差点の手前で対面信号が赤になつたので乗用車一台に続いて停止線に停止中、その左側には亡由美子の友人である服部某、同じく高橋祐美、亡由美子の順で三台の原動機付自転車が停止しており、亡由美子運転の被害車両は加害車両の後部左側付近であつたこと、そのときの加害車両の左側面と道路左側のガードレールとの間隔はおよそ一メートル前後であつたこと、被告佐々木が青信号で発進した際、亡由美子らも被害車両を発進させて進行し、服部及び高橋の原動機付自転車は本件交差点内で加害車両より前に出て、そのまま進行したが、亡由美子運転の被害車両は加害車両と並進し、本件交差点出口にある縁石に衝突して転倒したこと、加害車両は、発進後はほぼ真直ぐに進行し、交差点の中央から出口付近においては時速約三八キロメートル程度の速度であつたこと、

(五)  加害車両は、車幅約二・四七メートル、車長約一一・八メートル、車高約三・五五メートルの箱型の車両であり、加害車両の運転席からは、ルームミラーでは後方を見ることはできないが、左側のサイドミラーで左側方ないし左後方を確認することが可能であること、しかるに、被告佐々木は、交差点手前で停止中、亡由美子らの原動機付自転車に全く気付いておらず、発進したのちも服部及び高橋の原動機付自転車に追い抜かれて初めてその存在に気付き、また、亡由美子の被害車両には全く気付かず、本件事故の発生にも気付かないまま事故現場を通り過ぎていること、

(六)  加害車両の左後輪の後部のタイヤには、被害車両あるいは亡由美子と衝突ないし接触したことを窺わせる擦過痕が残されており、また、亡由美子は、右前頭骨粉砕骨折兼脳挫傷の傷害を負つており、死体を検案した医師及び捜査機関においては加害車両に轢過されたとの見方が有力であること、

(七)  原告訴訟代理人から本件事故の発生原因についての鑑定を依頼された鈴鹿武は、本件事故現場を見分するなどしたうえ、被告佐々木の運転操作が亡由美子及び被害車両に強い影響を与え本件事故が発生したものと判断していること、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる確実な証拠はない。

3  右の事実によれば、被告佐々木が本件交差点を進行するに当たり、特に加害車両を左に寄せるなどして被害車両の進路を積極的に妨害したことまでは認められないものの、加害車両の停止中、その左側面と道路左側のガードレールとの間隔はおよそ一メートル前後であつたもので、右の間隔は、停止中の加害車両の左側に原動機付自転車が入つて来て信号待ちをする段階では危険はなく、また、発進後も交差点内においては、左側に余裕があるため、左程の危険はないとみられるものの、並進状態で交差点の出口に至つた場合には、原動機付自転車が交差点出口以降で道路左側のガードレールや縁石と加害車両との間を走行することを余儀なくされることから、加害車両の左側を原動機付自転車が並進した状態で交差点出口に向かうことは相当に危険なことと考えられ、このような点から考えると、亡由美子は交差点出口に近づいて再び進路が狭められることによる危険に直面した結果、加害車両と接触したか又は接触の危険を感じたことが原因で縁石に衝突し転倒したものと考えられるところ、右のような危険性は、加害車両が大型車両であればあるほど、その威圧感及び被害車両にとつて加害車両の前後に回避することが困難であることにより、増大するものと考えられるから、大型車両の運転者である被告佐々木としては、加害車両の左側の原動機付自転車等の有無、その動静、加害車両と道路左側のガードレール等との間隔等に十分注意を払い、状況に応じて、加害車両の進路を右に寄せ、あるいは、原動機付自転車等が先に交差点から出られるよう減速するなどの措置を採るべき注意義務があつたものというべきところ、被告佐々木が亡由美子運転の被害車両の存在にさえ気付いていなかつたことは前示のとおりであるから、被告佐々木には、左側方ないし左後方に対する注意が十分でなかつた過失があるものというべきである。

4  したがつて、被告佐々木には、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任があるものというべきであり、また、被告佐々木に過失がなかったと認められないことは前示のとおりであるから、被告会社の免責の抗弁は採用することができず、被告会社には、自賠法第三条の規定に基づき、損害賠償責任があるものというべきである。

5  一方、亡由美子が無理に加害車両を追い越そうとしたことを認めるに足りる証拠はないものの、前記認定事実によれば、亡由美子においても、加害車両より先に本件交差点を安全に通過できないとみられるときは、減速して加害車両を先行させるなど、加害車両と並進のまま交差点の出口に向かう危険性を回避するよう配慮すべき注意義務があつたものというべきところ、前記認定事実によれば、亡由美子にも右注意義務を怠つた過失があるものと推認することができ、右推認を覆すに足りる証拠はない。そして、本件事故は、亡由美子の右過失も一因となつて発生したものというべきであるから、亡由美子の右過失と被告佐々木の前示の過失を対比すると、亡由美子には、本件事故の発生につき五割の過失があるものと認めるのが相当である。

三  続いて、損害について判断する。

1  逸失利益 一九〇二万四七五八円

原本の存在と成立に争いのない甲第一号証及び原告直廣本人の尋問の結果によれば、亡由美子は、昭和四二年二月一五日生れの女子で、本件事故当時満一六歳であり、美容師になるため、美容師学校に入学する計画であつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、亡由美子は、本件事故で死亡しなければ、満一八歳から満六七歳までの四九年間稼働可能であつたものというべきであるから、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、女子労働者、学歴計、全年齢平均給与額である年額二三〇万八九〇〇円を基礎に、生活費として五割を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡由美子の逸失利益の現価を算定すると、その合計額は、次の計算式のとおり、一九〇二万四七五八円(一円未満切捨)となる。

230万8900×0.5×16.4758=1902万4758

2  慰藉料 一三〇〇万円

前示の亡由美子の年齢、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、亡由美子の慰藉料としては一三〇〇万円をもつて相当と認める。

3  相続

原告らが亡由美子の両親であることは当事者間に争いがなく、右の事実及び原告直廣本人の尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告らは、亡由美子の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続取得したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

4  葬儀費用 七〇万円

原告直廣本人の尋問の結果によれば、原告直廣は、亡由美子の葬儀を行い、これに七〇万円を超える金員を支出したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

5  過失相殺 五割

以上の損害の合計は原告直廣分一六七一万二三七九円、原告フクミ分一六〇一万二三七九円となるところ、本件事故については、亡由美子に五割の過失があることは前示のとおりであるから、過失相殺として五割を控除すると、残額は、原告直廣分八三五万六一八九円(一円未満切捨)、原告フクミ分八〇〇万六一八九円(一円未満切捨)となる。

6  損害のてん補 一〇〇〇万円

原告らが前記損害に対するてん補として自賠責保険から一〇〇〇万円の支払を受け、これを二分の一ずつ各自の損害に充当したことは、原告らの自認するところであるから、右残損害額からこれを控除すると、残額は、原告直廣分三三五万六一八九円、原告フクミ分三〇〇万六一八九円となる。

7  弁護士費用 合計六〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人らに本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、前示認容額、本件訴訟の難易、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告ら各三〇万円をもつてそれぞれ相当と認める。

四  以上によれば、原告らの被告に対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、原告直廣において、三六五万六一八九円、原告フクミにおいて三三〇万六一八九円、及び右各金員に対する本件事故発生の日である昭和五八年三月二一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例